宝島の田村さんに岩波ホール前でピックアップされると、歩い て30秒の中華料理「新世界菜館」に移動する。 |
「北方様の会場ですね」とボーイに声をかけられ軽く頷くと3階が
会場だと知らされる。
ひとりづつしか昇れない狭い階段を上がる。
軽く緊張してきた。なにせあのハードボイルドな北方謙三氏だ。
会場にはすでに参加者がほぼ揃っているようで、もうすぐにス
タートしまうよという状態だった。受付を簡単に済ますと席は自
由席で空いてる円卓に腰を下ろす。
ざっと会場を見渡すと10人掛けの円卓が5つ。つまり50人であ
る。会場まで来てしまって何だが今ひとつ趣旨を理解していない
僕がいるわけで困ってしまった。
多分この中で僕1人わかってないのだろう。
用意された本日のメニューと資料に目を通す。主催者である集
英社「小説すばる」の編集長が挨拶を行う。(29年間北方さんの
編集を担当しているそうだ)どうも良く知っている仲間内のプラ
イベートな会のようで全然リラックスムード。堅苦しさはどこに
もない。
続けて主役の北方謙三さんの挨拶。
ぶっとんだ。
スゲーカッコいい。想定を10倍は軽く超えるカッコよさだ!
仕立ての良さがビンビン伝わる少し濃い目のチャコールグレーの
スーツに茶の皮靴。
今年57歳だそうだが。
台詞が洒落ている。話のスピードも早すぎず遅すぎず。声も大
きすぎず小さすぎず。あくまで自然体でしかもユーモアは忘れな
い。茶目っ気たっぷりだ。
完璧な話っぷりである。
参ってしまった。
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さて挨拶も終わり。僕にもようやく趣旨がつかめた。
この会は、5年10ヶ月の歳月をかけた超大作『水滸伝』最終
19巻の単行本が集英社から発売された記念のお祝いなのだ。
趣向も凝っていて小説の中で主人公達が食べる中華料理をでき
る限り忠実に再現しようというもの。
「これはつまり遊びです。だから今夜はぜひ楽しんで食べてくだ
さいね」とリラックスを演出する北方先生。
そのメニュー全9品。お酒は1989年の紹興酒もちろん瓶である。
シャンパンサーベルの如く北方先生が瓶を真上からカチ割る。
石膏で固められていた蓋が割れる。途端に部屋中に花のような
素敵な香りが広がる。
ワイングラスに注がれた紹興酒は色合いもまるでブルゴーニュ
のグランクリュに勝る素晴らしさで、これは覚悟して飲まねばと
思う。
テイスティングをされた北方先生は
この酒はきっと格式の高い家に生まれた美しい女の子が不遇に
も一歳の時に両親と生き別れになり老婆に育てられるも3歳の時
にはその老婆もなくなり親戚の家を転々と・・・それが16歳に
なってはじめて・・・まぁ何言ってるかよくわからなくなってし
まいましたが、テイスティングなんてこんなもんでしょう。
ではさっさと飲みましょう!
なんてユーモアー満載で場を柔らかくしていく。
もちろんメニューの名前も北方先生自身が考えた上お品書きも
先生の直筆。またそれぞれの料理にはそれぞれエピソードが存在
しているわけ。
例えば、この料理は刺客が矢じりを隠したんだけどその時の御
粥なんだ・・・さて、矢じりの具材は何を使っているのでしょう
か?料理長が素敵なアイデアを出してくれました。それは食べて
からのお楽しみ!なんて話もあれば、特製饅頭の具材については
水滸伝の中では河が多くどうしても淡水魚になるもんで、当初
フナや鯉を素材に挑戦したんだが、どうしても臭みが邪魔をして
最後はマナカツオに高菜と筍を和えて使ったんだ!なんて感じで
一品ごと料理がサービスされる度に北方先生みずから丁寧に紹介
いただけるという徹底ぶり。
お肉は子豚の丸焼きに子羊の煮込み。米沢牛のローストビーフ
にスッポンのスープ。はじめて食べた食用ホウズキそして秀逸な
デザート。
最後は『水滸伝・外伝』を書くときは舞台に海も採用してバン
バン魚の料理も出すつもりだからこの食事会もう一回やりましょ
う!なんて発言も先生の口から飛び出した。
とにかく気さくだけど、嫌らしさが全くない。とにかく自然で
カッコいい。また円卓でお隣に30分近く座られたので本当にたく
さんのお話を頂けて大変勉強になりました。
もちろん記念撮影とサインもゲット!
しかもお土産まで頂いて!何から何まで完璧!グレイト!
『水滸伝』全巻必ず読みます。
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50名の内20名は集英社の方だそうで、つまり外部参加者は30名
弱というプライベートな会。今でもまだ信じられません。
そういえば「ソロモンの王宮」の密着取材も入っていてなんとも
非日常な空間でした。
とにかく今日の事はしっかり記録しようと思い。3時間かけて
メルマガに記録中!
なんか変な1日だったなぁ。とにかく田村さんサンキュー!
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そういえば4ヶ月前にたまたま買った「シードリーム」という
船とリゾートの雑誌に別荘で暮らす北方先生が紹介されていてカ
ッチョいいなぁと思ってすかさずモチベーションシートに謙三い
いね。会いたいと書いたんだよね。
さっき思い出した。
それからもうひとつ思い出した。たしか僕がまだ24歳くらいの
時に読んだ「贅沢な失恋」というオムニバス短編集に「チーズに
合うワイン」という北方謙三の短編があって、ゲンメ(Ghemme)と
いうイタリアの赤ワインと癖の強いチーズ(確かパルメジャーノ
の強いのだったと思う)をあわせて食すシーンが怒涛の文章で表
現されていて自分が食べてる錯角を覚えた。
結果どうしても、この組み合わせを試したく2ヶ月かけてゲン
メを輸入している神戸の会社を探し出しチーズも近いものを取り
寄せ試した。
正直おいしくなかった。でも満足だった。
今思えば当時の僕にわかるはずもないのだが、小説を読んで
ここまで行動したのは北方ワールドの力だったんだ!
さぁ皆さん読みましょう!
■『水滸伝HP』
http://www.shueisha.co.jp/suikoden/
全19巻分の膨大な原稿。すべて万年筆で原稿用紙に直筆だそ
うです。壮絶。
■新世界菜館 千代田区神田神保町2-2 新世界ビル
TEL:03-3261-4957
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