鹿児島から福岡に帰ろうと僕は九州新幹線つばめのホームにい
る。社内清掃が終わりゲートが開く出発は5分後だ。
あっそういえば事務所に電話を一本かけないと・・・
僕はいつも入れてあるはずの上着のポケットを探す。
あれっ?
定位置にあるはずの携帯電話が無い。
僕は両方の内ポケットを探る。無い。
ズボンのポケットそしてカバンの中。やはり無いぞ・・・。
ホテルの部屋で電車の時間をi-modeで検索をしたから部
屋を出るまでは確実にあった。
どこかに落としたのだろうか?
僕は立ち上がりホームをぐるりと見回す。ほんの数メートル先
に公衆電話がある!僕は駆け寄り10円を流し込むと自分の携帯
番号をプッシュしカバンに耳を澄ます。
しかし空しくも僕が聞こえる範囲で着信音は鳴らない。
もしかしてマナーモード?いやバイブは入っている。何処だ?
何処に忘れた!ホテル?ホテルの部屋で悲しく鳴っているのか?
仕方がない。携帯を探しに行くとしよう携帯がないと仕事にな
らない。しかしバングラで携帯を盗られてからまだ2ヶ月も経っ
てないというのに・・・。
僕は急いで階段を駆け下り改札まで逆走する。頭の上で列車が
発車するのがわかった。「ええええい。俺は何をやってるんだ」
改札で忘れ物を取りに戻ると駅員に伝えると
「当日中であれば自由席に乗れますよ」と駅員は呑気に応える。
「払い戻しはできますか?」
「いやーこの電車今発車しちゃったから、戻りませんよ」嫌味な
感じである。まぁ僕が悪いのだから仕方ないが・・・
しかし僕は過去の経験からNTTとJRと警察や県庁や区役所
など公共系(または元公共系)の返答は別の部署で再確認するこ
とにしている。どちらが正しいか正しくないかではなくて、意外
とどうにかなるもんだからだ。
交渉は相手とこっちの勢いで結果はまるっきり変わる。
すぐ横の「みどりの窓口」でさっき切符を買った際の女性駅員
を捕まえ忘れものを取りに一旦帰る旨を伝えた。
すると「戻ってこられるまで30分で大丈夫ですか?」
「はい」
「では次の電車であれば指定もグリーン席も空いてますが、どう
されますか?」
「ではグリーンで」
ほらどうにかなった!
あらためて席を確保した僕は大急ぎでホテルに戻るためタクシ
ー乗り場に急ぐ。
さっきまでどんより真っ黒だった空はいよいよ我慢できなくな
ったのか大粒の雨をバラバラと降らせてきた。
小型の乗り場にはすでに長蛇の列ができているので迷わず中型
タクシーの列にから先頭のタクシーに滑り込んだ。
「ホテルへ・・・」
返事はない。
都会の中型タクシーも愛想がないが、地方のタクシー運転手も
少し違った意味で愛想がない。都会の運転手は愛想を知っている
が愛想を振りまきたくないのに比べ、地方の運転手はそもそも愛
想を知らないのだ。もちろん個人差はあるだろうが。
ラジオが大雨注意報の勧告を流している。
どうやら本降りになるようだ。
駅からまっすぐに伸びた鹿児島のメインストリートはきっと信
号の制御プログラムに重大な欠陥がある。とにかく300m間隔
に設置された信号に一回一回止められるのだ。
まっすぐ連なる道の先に視線をあわせると赤青赤青赤青と交互
に信号がならんでいる。僕は溜息をついた。
この馬鹿な信号が渋滞の原因である。
僕のイライラはクライマックスをむかえようとしていた、なに
せ次の電車まで後20分しかないのだ。
「すんません。運転手さん携帯電話貸してもらえませんか?」
「えっ俺の?何すんの?」
「ホテルに着く前に電話を探してもらっておこうと思って・・・
100円払うんですんません」
「・・・電話は何番?」運転手は渋々携帯電話をポケットから取
り出すと僕の伝える番号をダイヤルして僕に電話をつきだした。
「あっすいません415室に昨日泊まった者ですが、携帯を忘れ
てなかったでしょうか?部屋かレストランだと思うのですが」
「あっそうですか、では探してみます」
「今ホテルに向ってますんであったら一階フロントで預かっとい
てもらえますか?」僕は用件だけを素早く伝えた。
タクシーは頭の悪い信号にまた足止めされている。
ようやくホテル前に乗り付けると僕はタクシーを待機させたま
まロビーに飛び込んだ。
「すみません携帯ありましたか?さっき電話したものですが」
僕は10メートル先のフロントにいる従業員に声をかけた。
僕が急いでいることを察したのか、すぐに僕の電話をもって駆け
寄ってきた。
よかった。携帯がみつかった!
僕は腕時計で時間を確認する。
あと15分。今から駅にもどればギリギリ間に合いそうだ。
ホテルの従業員に礼を言うと、待たせていたタクシーに乗り込
むに駅へ急ぐよう伝えた。
運転手に返事はない。このドライバー人の気持ちを察するとい
う事を知らないのだろうか?
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とにかく僕の気持ちは行きにくらべてずいぶん余裕を取り戻し
ていた。相変わらず信号はテンでバラバラだが気にならない。
余裕ついでに変なことまで考えた。
自分がイライラしている状態焦っている状態をどんな風に文章
で書けば伝わるんだろうか。
そんなわけでメルマガに書いてみようかしら・・・
駅に到着すると料金のメーターは1580円にもなっていた。
往復のタクシー代とこの無駄になった30分。これが携帯電話を
忘れた代償である。
タクシーを降りようとすると運転手が口を開いた。
「電話代100円くれよ」