692-改革と保守

 NHKの特番でチリや南アフリカ・モロッコ・オーストラリアと言った
ニューワールドの格安ワインに老舗高級フランスのワイン業界がダメージを
受けている様を紹介していた。


 

 実に全世界のワイン生産の6割を占めるヨーロッパだが、消費は2004年ま
での20年で11%減少していると言われている。

 反対に米国・オーストラリア・南アフリカ・チリなどいわゆるニューワー
ルドからのワインの輸入が、2004年までの5年間で2倍に増えた。欧州委員
会の予測によると、10年後にはEUの全生産量の15%が過剰になるとして
いる。

 現実、EUのワイン保護政策の一環で相当量のワインが廃棄されている。
これは小学校の社会で習ったオレンジの廃棄と同じ理屈だ。

 捨てるなら最初から作らなければいいわけだ。具体的には今後5年間で、
域内のブドウ畑の6%にあたる20万ヘクタールを減反するそうだ。
(EUは今年7月、年間800億円とも言われる廃棄費用をマイナス方向へ使
うのではなく、もっと前向きに活用する方向へと政策を切り替え減反を中心
とした方針に転換した)

 しかし事は簡単ではない。作らなければ、多くの葡萄生産者は干上がって
しまう。これは日本の米農家と同じである。

 ただし、減反が推進されるのは、輸入品に押され気味の格安ワインであり
いわゆる高級品は今のところすぐに減反とはならない。長年培ってきたブラ
ンドがここでも効いている。高級ワインはグローバリズムの煽りを受けにく
いわけだ。
 
 ちなみに、ワインを蒸留して工業用アルコールに転用するという政策も廃
止されるそうだ。いくらバイオ燃料といえ、コストが掛かりすぎるというわ
けだ。

 つまりこのEUの政策転換により、このままでは多くの葡萄農家が廃業に
追い込まれてしまう。EUとしては競争に勝てない農家は斬り捨てる方針な
のだろう。

 これが競争原理の怖いところだ。

 ある取り組みとして、コルクからスクリュー栓を採用したり、容器をガラ
スからペットボトルに変更するなど取り組んでいるそうだが、どうも本末転
倒のような気がする。

 コルクだから売れないわけではない。
 ペットボトルにしてまで、価格競争をしたところで、圧倒的な労働費の差
が埋まるわけではない。

 つまり改革か保守かであるが、悪戯に規模の拡大や革新的な変更を行うよ
りも、保守的といわれようが、バックトゥベーシックをスローガンにこだわ
り、正統かつ伝統的な製法を厳守した「本物であること」がひとつの道だ。

 一言に換言すれば「極める」ということだと思う。

 

  2007年11月13日   岡崎 太郎