860-伊江島の単式蒸留器で造った島100パーセントのラム。

伊江島産サトウキビの絞り汁のみで仕込み、
伊江島の単式蒸留器で造った島100パーセントのラム。

年間の生産量は原酒70度で1万リットル。 
販売出荷量は37度に加水して7000リットル。残りは貯蔵される。 

 イエラム サンタマリア クリスタルは70度の原酒をステンレスタンクで63度に加水調整後そのまま1年寝かせたあと、ボトリングの時に37度まで加水して濾過して瓶詰めされる。 


 
伊江島産サトウキビの絞り汁のみで仕込み、
伊江島の単式蒸留器で造った島100パーセントのラム。

年間の生産量は原酒70度で1万リットル。 
販売出荷量は37度に加水して7000リットル。残りは貯蔵される。 

 イエラム サンタマリア クリスタルは70度の原酒をステンレスタンクで63度に加水調整後そのまま1年寝かせたあと、ボトリングの時に37度まで加水して濾過して瓶詰めされる。 

 イエラム ゴールドは、2年から3年の樽熟成を行う。国産ウイスキーに使用したオーク樽を利用するが、伊江島の気温が高いことからエンジェルシェアは年間10パーセントを前後という。そのぶんウイスキーよりも熟成も3倍早い。10パーセントということは10年熟成すると樽の中の酒は無くなってしまうことになる( 70度の原酒をステンレス樽で63度に加水調整を行い、そのあとオーク樽に充填され熟成がはじまる) 

 イエラムサンタマリアの製造責任者である浅香さんに詳しくお話しをうかがった。 

 現在、生のサトウキビの買取価格は1t 約21000円ですが、そのうち約16000円は国からの補助金です。この価格は残念なことに30年以上変わっていません。サトウキビは保護作物なのです。 海外の砂糖価格はとても安くて、しかも世界的に生産過剰です。ブラジルやタイなどは大規模農法で機械によるオートメーション化が進んでいて、手作業の伊江島のサトウキビ農業なんて競争にならない。保護の是非はあるけれど、保護がなくなれば日本の黒糖産業も文化も消滅してしまう。 

 最終的に精製されて砂糖となるサトウキビですから、栽培の方法が手作業だ丁寧なんだとこだわっても、最終製品にはなにひとつ差がでないのです。しかもサトウキビは収穫までに約2年が必要と時間がかかります。 こういった理由から生産農家はピークの3分の一生産量は10分の1になってしまい、伊江島の黒砂糖工場も遂に村営のこの工場ひとつを残すだけになってしまいました。

 この蒸留施設は、元々国とアサヒビールが2011年3月までバイオマス用サトウキビの実証実験施設でした。計画通り5年間の実験を終え伊江村に譲渡されたものなんです。せっかくの建屋を解体してしまうのも勿体ないので、なにか出来ないのかと思案の結果生まれたのが、このイエラムサンタマリアなんです。 

 サトウキビが原料の酒といえば奄美の「黒糖焼酎」が有名ですが、酒税法で、黒糖と米麹を原料の焼酎は奄美諸島でしか認められていません。
 そこで原料が一緒の「ラムならどうだ」ということでプロジェクトがスタートしました。しかし道のりは厳しく酒造の認可には準備から2年もの時間がかかりました。 

 ラム酒に適した蒸留器や充てん設備を新設、一部改修を施し、2011年4月に新工場(面積約530平方メートル)を完成しました。 ( 新たな生産設備の導入費用などを含め総事業費約9500万円のうち、約7600万円を沖縄離島振興特別対策事業費から受ける) 

 ところで伊江島には川がなく、土壌が水はけがよく米の栽培に適さないため米が採れません。そういった理由から伊江島には珍しく泡盛の蔵がありません。なので地酒は島の悲願でもあったといいます。そうして完成したイエラムサンタマリアは、原料のサトウキビも天然の湧き水もすべて伊江島産です。 圧搾から蒸留そして熟成までその過程すべてを伊江島で完結させた100パーセント島産の地酒なのです。 

 そんなイエラムですが、世界のラム酒の中でたった4パーセントしか存在しない特殊な製法でつくられています。 世界のラム酒96パーセントの原料は廃糖蜜です。廃糖蜜とはサトウキビから作られた黒砂糖を白砂糖に精製するときに出る残りカスの黒い液体。これを水で薄めた糖液を酵母の力で発酵させて蒸留前の酒をつくっています。つまり砂糖の精製過程の残渣の有効利用なのです。 ちなみに廃糖蜜は、その製造過程で相当の熱が加えられているので腐りませんが、風味は熱で飛ばされています。 

 さて伊江島にあるのは黒糖工場であって白砂糖の工場はありませんから、通常原料として使われるこの廃糖蜜が存在しません。 そこで廃糖蜜を使わない製法を探したところ、フランスの海外県にあたるカリブ海の島グアドループやマルティニークで造られたラムに辿り着きます。それはアグリコール製法という廃糖蜜ではなく生のサトウキビから絞ったジュースを使う製法だったのです。 

 このラムを飲んだ美味しさと驚きが現在のイエラム サンタマリアにつながっていきます。世界のラム酒のたった4パーセントといわれているアグリコール製法でイエラムはつくられているのです。 まず1トンのサトウキビから、800リットルのジュースがとれます。
( その糖度は17~18度ととても甘い) 

 サトウキビは収穫後、その日にジュースを絞らないと腐ってしまいます。さらにそのジュースはほんの15分ほどで腐りはじめるのです。 これは温暖な気候のためサトウキビの皮や根についた土壌菌が活発に働きだすためです。
 
 ですからジュースを絞るったらすぐに60度でゆっくり真空しながら濃縮をおこない腐らないレベルまで糖分をあげます。そして冷蔵保管。 サトウキビの収穫時期である12月から3月頭まではこのラムの原料となるジュースの濃縮作業に追われます。こうして一年分の原料を確保するのです。 

 ラムの元となる蒸留前のもろみは、まずこのサトウキビ濃縮シロップを伊江島の天然軟水で戻して、沖縄の高温多湿でも元気に働く厳選した酵母を加えます。 すると発酵がはじまり3日で約9パーセントの酒ができあがります。この時点で糖はすっかりアルコールに変化しています。 ちなみにサトウキビのジュースは絞れば、もう糖ですから、日本酒のように米のデンプンを麹などで”糖化”させる下準備がありません。 

 イエラムは常圧の単式蒸留器です。一回の蒸留には1600リットルのもろみ(アルコール9度程度のお酒 )をタンクにセットします。 蒸留ボットのネック形状は企業秘密のためカバーが取り付けられています。 1600リットルを蒸留して商品になるのはほんの11パーセントの180リットルのみ 。

 まず初留は約80度でおよそ20リットルは使いません。 そして中留(本留)70度 の約180リットルを原酒として利用します。 最後に後留120リットル 40度は、蒸留終りには、沸点の高い不純物が混じります。 たとえばサトウキビの皮の脂なんかが混じって出ちゃう。この脂は貯蔵すると酸化します。そういう意味から後留も原酒には使いません。(初留と後留は再留時に戻して利用します)分離された残った蒸留廃液はほとんどが水分ですが、ミネラルや油そして酵母がふくまれているので、堆肥に利用します。 

 最近では減圧蒸留といって、気圧を下げながら低い温度でアルコールを抽出する方式もありますが、長期熟成しても変化が少ないんですよね。 常圧だと揮発してしまうような繊細な香りもとれちゃう。それはもちろん美味しいのだけれど繊細で酒質が太くない。 
なので長期熟成には常圧の方が向いていると考えています。 

 単式蒸留では1日一回 朝8時から作業をはじめ9時から蒸留をはじめて終わるのが13時。 
それからポットが冷めるのに2時間。最後に人間がはいって1時間しっかり掃除します。 
なので1日一回しか蒸留できません。効率はけしてよくはありません。 連続蒸留機であれば、どんどんやれるから効率はいいですが、やはり本格的な製法といえば単式蒸留でしょう。 

原酒の70度を63度に加水します。70度だとアルコールが強すぎて樽のニュアンスがうつらない。 それに70度だとどんどん樽から揮発しちゃう。これが50度と低ければぼける。 
63度はスコッチウイスキーの経験値とも言われています。 あと70度だと消防法にひっかかります。 63度だと大丈夫です(笑) 

 加水に使う水は、伊江島の軟水にした湧き水を使っています。沖縄はほとんど硬水なんですが、伊江島は中硬水です。 硬水だとミネラルが溶けちゃってるので、他のものが混じる隙間がありません。なのでアルコールと水が上手に馴染むのです。 

 63度の原酒を3140リットルのステンレス樽で1年寝かしたものがクリスタルです。 
 仕込みは3月から11月まで、また夏場は暑過ぎる日や台風の日は休みます。12月から3月まではひたすらサトウキビを絞っています。 


一問一答 
Q1 オーク樽だけでなく、いろんな樽にはチャレンジしないんでしょうか? 

A 実は現在、スコッチウイスキーの樽や赤ワインの樽、ニッカの樽、ポートワインなどさまざまな樽で実験的に熟成をおこなっています。 
もうしばらくお待ちください。 

現在メインで使っている樽は、ニッカ「余市」の古樽です。 
元々アサヒグループのバイオエタノール工場だった縁でアサヒグループ参加のニッカ余市蒸留所からわけて頂きました。 


Q2 熟成させると度数は落ちる? 

A そうですね5年で、63度が57度くらいに。 
樽の位置、地面に近いか、高い所かによって変わります。
沖縄は気温が高いからアルコールの方が先に抜けるのです。 
世界的には、水分が先に抜けてアルコール度があがる場所もあるそうです。 
  2019年02月07日   岡崎 太郎