310-原体験

 

 そもそも僕の通販原体験は、月刊ジャンプの裏表紙にギッシリ
雑然と並べられた、少年向けグッズの通信販売広告だった。

 
商品は、ボクシンググローブ付きサンドバック・エアガン・ヌ
ンチャク・格闘技やアイドルのポスター・身長の伸びるスニーカ
ー等、ひと癖もふた癖もある雑貨が多かったのだが、そのなんと
も軽く信憑性の欠けたコピーに「ホンマかいな?」と想いながら
も胸躍らせたものである。

 

 まぁマニアとまで言わずとも、男心をくすぐる商品群のてんこ
もりだった訳だが、そんな僕が大人になって通販ビジネスに関わ
っているのも不思議な縁を感じる。

 思い出してみると、前会社では海草原肥石鹸という中国産の痩
せる石鹸や塗ったら痩せるクリームに当時パフィー全盛の頃、そ
のヘアスタイルを作るのに必要だったワッフルアイロン等、先述
の通販原体験を世襲した内容の商品を結構やったもんだ。

 しかし今考えるとなんとも浅はかな事に精を出したもんだ。

 儲かればいいという発想はなかったけれど、時代の風を読み、
最速で商品を揃え、広告で稼ぐことに、なんともビジネスのスリ
ルとスピード感を醍醐味だと感じていた。

 売れれば、さすが俺様が企画したのだからとご満悦。

 単純に売れると楽しかった。

 だけどブームの逃げ足は早く、逃げ時を間違えば不良在庫の山
になりかねない。そんな博打のような商売を2年も続けていると
一番肝心のアンテナの感度、つまり消費者感覚との差が生まれる。

 これは致命的なことで、先を行き過ぎても、遅れても駄目。

 消費者との距離感は半歩先くらいが調度いい。

 少しづつだけど、そのズレを感じていた。だんだん当たる確立
が落ちてきている。次々に企画はするけれど、失敗続き。おかげ
で最初は、チビチビテストする大切さと手法を覚えてけれど。

 とにかく、そんな感じだったけれど、たまたま運がよかったの
で大きな痛い目には合わなかったのが幸いだった。

 通販をはじめて丸々10年が過ぎた。あっという間だが、まぁ
それなりの時間だと思う。この時間の中で僕はそれなりに賢くな
った。

 だけど失くしたものはなんだろう?

「いきおい」は、どうだろう?

 人脈が増えた分、仕事は早く効率もよくなった。
しかし「勢い度」は40%ダウンだと思う。

 どうやら、いろいろ知りすぎてしまった気がする。人間知りす
ぎると上手く動けなくなる。過去の失敗や経験が邪魔をするから
だ。しかし所詮前回は前回なのだ。

 今回は今回で新たに、やってみないとわからない事はたくさん
ある。奇跡もあれば、偶然もある。

 だから賢くなりすぎると、人生は面白くない。

 チャレンジを忘れてはいけない。あまりにも当り前では面白く
ない。もっと「キテレツ」で「ヘンテコ」で誰が買うの?といわ
れるような商品でも「日本発」でも!「おもしろそう!」という
ワクワク感を感じるセンサーを曇らせてはいけない。

 もっと直観で動けたはずだ!

 しかし知ってしまったもんは仕方がない。直観を再度信じつつ
「いきおい」を取り戻せるよう意識するしかない。

 日々反省。

 原体験を思い出してワクワク感のスイッチを入れなきゃ!
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  2004年04月15日   岡崎 太郎