呼び込みの男は自慢げに運転席で待っていた若い男に「連れて きたぜ!この客を空港までだ!」と中国語で告げた。 |
僕は、このやり取りに違和感を感じた。
こいつら、俺を遠い浦東空港の方に連れて行こうとしている。
「ストップストップ!アイ ウィル ゴー トウ HKだ!
ちゃんとチェックしろ馬鹿野郎!俺は近くの空港に行くんだ」と
激しく罵りながらチケットを見せる。
運転手と呼び込み2人の中国人は、しぶしぶ顔を近寄せ、エア
チケットを確認する。
しばし全開のクーラーから吐き出されるファン音だけが聞こえ
る。僕は後ろの座席から中腰で前の座席に身を乗り出しやりとり
に参加する。
呼び込みの男が僕に振り返る。
「間違いない。HK行きのこの飛行機は、プートン空港から飛
ぶ」と英語で僕に伝えてきた。
「なんと!」しかしまだ信じられない。信じるわけにいかない。
再度携帯で確認を試みる。「ぷーぷーぷー」駄目だ。すると呼
び込みの男が「俺のを使え」と携帯を差し出す。
エマージェンシーな感じが国境を越えたのだろう。
昨日お世話になった中国人ガイドに電話をする。
「すいません岡崎ですが・・・HKに行くんですが、どっちの空
港でしょうか?」
「国際線はすべてプートンですが何か?」
「えええええ!」僕は手短に電話を切ると、落胆した表情で
「OK。レッツゴー浦東空港だ」と2人に伝えた。
せめて30分前にはチェックインしなければ・・・さっきまで余
裕のよっちゃんだったはずなのに
しかもこのチケット、もしかしたらディスカウントかも知れな
い。そうすると別の便に変更ができない可能性もある。
むむむむ。
夜間にぶっ飛ばしても、浦東空港まで40分は掛かる。しかも今
はお昼だから渋滞を考慮すると・・・「アカン絶望的だ」。
ちなみに昨日の夜、上海歴10年という今回手配をしてくれた日
本人K氏に、念入りな確認をした「明日は虹橋空港ですよね!」
なにせ空港まで3分。その理由以外まったく魅力的な売りのな
い、中途半端なホテルを予約する理由はないと妙に理解した。
これでは納得損だ。もっと確認すればよかった。
実はおかしいなと思いながらも香港は中国だとどこかで納得し
ていたのだが。
今すぐKDDIとK氏に文句をぶちまけたい。今となっては意
味がない。
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猛烈なスピードで白タクは高速を飛ばす。
しかし案の定、先の見えない渋滞に巻きこれる。どうも合流ポ
イントがあるようだ。刻々と時間が過ぎていく。
まぁもし間に合っても、あの広い空港内の中から「東方空港」
のカウンターを見つけてチェックインして出国して・・・
まぁ無理だよね。このエアチケット変更が効くことを祈ろう。
そんなわけで、僕はさっさと諦めた。しかし一度煮え上がった
胸の奥の方がジリジリしている。落ち着かない。
車は、ようやく渋滞を抜けると、アクセルをベタ踏みでスピー
ドを上げる。途中「公安」の車もブチ抜いていく。
この国にスピード違反は無いのか?
ようやく空港の看板が目に入る。どうもまだ20kmも先らしい。
間に合うか?30分前なら奇跡だ。間に合うかもしれない。ヘタ
に望みが出てくると心がザワザワしてくる。
後10km。渋滞から完全に抜けた
後5km。新しく作られた直線4車線の専用道路をぶっ飛ばす。
後1km。空港の施設らしき建物が見える
間に合うのか?カウンターにチケットを出して笑顔が返ってく
るまで予断はできない。
車は出発ロビーのある2階に止まる。財布から適当にお金を払
う。呼び込み役の男が文句を言う。
僕は「ノータイム!」と叫びながらゼロハリのトランクを担い
で、空港の自動扉へ滑り込んだ。ガラス窓の向こうで「メーター
!」と叫ぶ男の声がした。
だいたい白タクにメーターも糞もない。
彼の提示する価格は正規料金の2倍程度。僕が払ったのは、ち
ょうど1.5倍。適正でいいじゃないか。
何の宛もなく、東方航空のカウンターを探す。ラッキー!10メ
ートル先がそうらしい。
溺れた子犬が岸にたどり着いたような疲弊感のまま、急いチケ
ットを投げ出す。
どうや?
俺は間に合ったのか?
カウンターの女性は、とても事務的にキーボードを叩く。
どうなんや?おい!
女は僕を見ると「バゲージ?」と首を傾げた。
おおおおおおおお!何という事だろう。間に合っちゃったよ!
なんと到着予定20分遅れのため、出発も遅れるそうだ。
ラッキーというより正直、力が抜けた。
間に合って嬉しいんだが、頑張った甲斐が消滅したというか・
・・
なんとも複雑な気持ちだ。結局、飛行機は予定より小一時間遅
れて香港に向かった。
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