522-バングラ2

 

 今回の旅は成田からだ。

 タイ国際航空でバンコクに入り、翌日バングラデシュの首都ダ
ッカに飛ぶ。約6時間+3時間の計9時間のフライト。

 

 機内での映画は、ただただ主役のシャーリーズ・ セロンが美
しいだけの「イーオンフラックス」。機内食はチキンカレー。
読書は伊坂幸太郎の新作「陽気なギャングが地球を回す」。

 ちょうど最後のページを読み終えると飛行機はバンコクに到着
した。

 タラップに一歩出ると、強烈な太陽と熱気がまったりと体に絡
んだ。蒸し暑い。

 いつも通り入国を済まし荷物を引き取りタクシーでホテルに向
う。ただしタクシー乗り場では30分も待たされた。
 
 今回は乗り継ぎ時間が中途半端に短いため、街の中心には出掛
けず、車で10分程度のミラクルグランドホテルに宿をとった。
一応4つ星ホテルだ。

 まぁ無理すれば遊べたのかも知れないが、実は数日前からお腹
の調子が悪くホテルで静かにすることにしたのだ。

 もちろんホテルのスパにはタイ式マッサージがあるので、さっ
そくマッサージとホットスタンプを90分受ける。料金は日本円
で3000円といったところだ。担当はJOMという35歳の女性。

 すっかりリフレッシュして就寝。ところが腹が痛い。何かあた
ったのだろうか?この程度で腹痛をおこすなんて先が思いやられ
る。

 翌日、朝8時にホテルからタクシーで空港に向う。チェックイ
ンカウンターの列は長いのはもちろんだが、無秩序にまるでアマ
ゾンの支流のように何本かの列がカウンターにぶっかっている。

 それでも少しづつだが前に進む。たぶんアメリカの空港よりは
手続きの処理が早いのだろう。アジア人は優秀だ。

 ちなみに僕の並んだ列はカウンターひとつ手前で右と左からの
列が合流していて、微妙な緊張が発生していた。すると左最前列
のバングラ人の男性が右の列の中国人女性に一組ずつ順番にしよ
うと解決策を提案していた。

 その場で折り合いをつけるとは・・・身勝手に我先にと急ぐ関
西のおばさんのようなことはなく、とても清清しかった。

 しかしそんな勝手なルールなどすぐに元の木阿弥だろう。この
混沌はきっと永遠に何度も繰り返されるのは間違いない。


 荷物を預けると空港利用料を購入し出国手続きを終わらせる。
 今回は思いのほかスムーズで30分もかかっていない。

 この空港は時間が余ったなど感じさせないほど、商業施設が充
実している。免税店もバリエーション豊かだしブランドの出店。
それからタイマッサージの店に各国のレストラン。

 施設内は禁煙だが、中庭風のオープンカフェがあってそこは喫
煙可。締め切らていない開放感がいい。その分クーラーは効かな
いが。

 このカフェでオレンジジュースとクラブサンドを頼んだ。

 すると隣の男性が「バングラに行かれるんですか?僕もいまか
ら飛ぶんですが・・・」と声をかけてきた。

 もちろん彼は人の心が読めるのではなく、僕がバングラのガイ
ドブックを読んでいたからだ。

 彼の名前は「ゆうじ」24歳。慶応大学で勉強中の医者の卵で
4月からはじまるインターンの前に途上国の医療を見学に行くそ
うだ。

「親父さんは心配しなかったの?」僕はそう言いながら、クラブ
サンドの塊をひとつ彼に渡す。

「あはは、行ってこいって!」彼はどうもと頭を下げサンドにか
ぶりついた。

「おもしろい親父だね。僕なんか心配しちゃうよ」

「親父も医者なんですが、去年ボランティアでバングラの病院に
行ってて。その時の話をよく聞かされてたもんで・・・」

 そんなわけで、僕は「ゆうじ」と知り合った。

 搭乗まであと30分だ。僕らはゲートに移動した。

 
  2006年03月14日   岡崎 太郎