まずはダッカ大学の隣にある国立ミュージアムを探す。
ただの偶然なのだが、ちょうどアジアトリエンナーレと言う
アジアのアーティストを集めた合同展示が行われてる関係で「日
本人のアーティストを探している」と言うと、妙に話が噛み合う
のだ。
しかし黒田はいない。彼は個展をやっているのだ。
次に敷地内にあるファインアートインステュートという美大の
ようなエリアで10人程度の学生に聞き込む。
聞けば芸術家の卵が500人もいるそうだ。
黒田を知っているか?と聞く。反応が悪い。知らんという表情
が返ってくる。「日本人だが」と言うと急に表情が明るくなる。
「タケシのことか?タケシは今いない。お前待つか?」
「タケシ?」一瞬黒田か?と思ったがどうも人違いのようだ。
黒田のフルネームは黒田晃弘(アキヒロ)だ。そこで確認の意
味も込めて「彼は長髪だと」説明するとタケシは短髪というでは
ないか!やはり人違いだ。どうも数人の日本人がいるようだ。
しかし捨てる神いれば拾う神もいる。
「サニー」と言う名の24歳の学生なのだが、彼がとっても親切
にしてくれた。大学内をぐるぐる回り僕と一緒に聞き込みをして
くれたのだ。
決め手はこの大学の先生。ちょうど裏庭で彼は仲間とお茶をし
ていた。仲間とはシンガーにドラマー。俳優にドキュメンタリー
専門の監督。言われてみるとちょっとそんな感じだ。
甘ったるいアッサムのミルクティーをごちそうになる。
2タカ(日本円で4円弱)極めて不衛生だが、味は悪くない。
なんとはなく30分近く情報交換をする。
どうやら黒田は知らないが、日本人の女性でアーティストの
リナを知っているので彼女がきっと知っているだろうと言う。
どうやら先が見えてきた。
ほどなく僕は黒田が個展をしているTSCホールを探し当て
た。もちろんサニーのお陰だ。結局彼は僕に2時間近く無償で付
き合ってくれた。お互いの携帯電話を交換する。
僕はTSCホールの玄関を抜け芝生の中庭を抜けたところにそ
のホールはある。(原則ここは警備が厳しく学生と教師以外は入
れない)
塀の外とは大違いだ。
@ @ @ @ @ @ @ @ @ @
いきなりやって来た僕を見て、黒田はおどろいた。
彼はちょうど母親と子供2人を描き終えたところだった。ちょっ
と待ってねという仕草をすると彼はその作品に仕上げを施した。
描かれた絵を見て母親が喜び子供たちは目を丸くしていた。
オレンジ色の西日が4人を照らして輝いていた。僕はたまらず
シャッターをきった。
黒田は僕に向きかえると「あれっ?でもよくわかったね。でも
どうやってきたの?」
「いやー探しましたよ。2時間」僕はVサインをした。
「そうだろうね。キャンパス広いから・・・夕方ホテルに行こう
と思ってたんだ」
「あはは。ダッカ大学にくればどうにかなるかなぁと思って」
僕は照れ笑いをした。
「こちらは」黒田が見慣れないサニーに目をやる。
「彼はサニー」そういって僕は紹介する。サニーと黒田が挨拶を
交わす。
会場内には10人程度の人がいた。
黒田をサポートしている現地のスタッフと見学者だそうだ。
僕は感激した。
黒田はしっかりバングラに溶け込み。念頭の目的どおりに個展
を開いていたのだ。
40日間で彼は約100人の人間を描いた。彼のパフォーマン
スは交信に近い。被写体の内面をキャンパスに描き出すのだから
ぜひ彼の作品を見て感じて欲しい。
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