554-個人情報の暴走

DCカードからカードの発行を断られた。

 つまり僕はブラックと言うことらしい。
 しかし一切身に覚えが無い。

 

翌日。CCBというクレジット信用情報を提供する会社の窓口
に僕は立っていた。郵送での取り寄せだと10日もかかるからだ。

 自動販売機で手数料の500円を払い必要書類と本人確認のた
めに運転免許書を窓口に出す。パテーションで1メートル間隔に
仕切られたブースに入る。(郵送だと900円だ)

 15分ほど待っただろうか?ようやく僕は自分のクレジット履
歴が印刷された数枚の書類を手に入れた。

 アメックスに銀行系のVISAカードにローソンカードそして
今は使っていない農協のカード。限度額と利用状況そして僕の登
録住所が印刷されている。ざっと目を通す。

 これと言って怪しい情報は無いような気がする。

 いったい何が原因なのだろう。

僕は目の前に座った中年の係員に「あのぉ?何かマズイ情報って
どれのことですかね?」と尋ねる。

 その男はニヤニヤしながら素早く僕の履歴を目で追うと3枚目
のプリントのある部分を指差した。

「これだね。この1万円」

「この一万円ですか?」僕はそのプリントに書かれたクレジット
会社の名前を確認する。

 九州カード?

 会社は知っている。VISAとマスター2種類のカードをサー
ビスする地場企業だ。

 しかし僕には使った覚えさえ無い。

「去年の8月ですね。これってどういう意味なんですか?」
そこには小さな漢字が6文字ならんでいた。

 男はなぜか自慢げに「この保障債務履行というのはですね・・
・この九州カードというクレジット会社があなたが払っていない
別の会社の債務を保証人として払ったいう意味ですわ」

 なるほど。なるほど。説明はわかった。

 どうやら僕がどこかの会社に1万円払い忘れてそれを肩代わり
したということらしい。 

 しかしおかしい。だいたい督促状らしきものを見た覚えなどな
い。それに1万円を払わないほどお金に困っていない。

 僕は腕を組みしばらく記憶をさかのぼる。

 ?

 考えても答えがでないの。直接九州カードに電話をする。

 電話に出たオペレーターは僕の気持ちとは反対に透き通るよう
な素敵な声と丁寧な応対で余計に気が滅入った。ようはどう応対
されても腹が立つわけか・・・。

 僕は名前・生年月日・住所を伝えると、去年の8月に支払って
いないお金があるらしいが何かの間違いではないかと問い合わせ
た。

 数分後に折り返しの電話をもらう。

 さっきの女性から一転して、いかにも大学時代はラグビーをや
ってましたなんて感じの男が電話をしてきた。どうやら督促管理
部の人間らしい。

 職業柄なのか横暴な雰囲気を感じる。

 僕は「何の間違いだ」と問い正した。ところが受話器からは信
じられない言葉を耳にした。

 どうやら事実らしいのだ。

 月末の引き落とし時に不足が生じ、自動融資が実施されたらし
い。

「ちょっと待って自動融資?そんな契約をした覚えはない。それ
にもしそれが事実として催促状さえもらってないぞ!」

「いいえお送りしましたよ何度も」

「どこにだよ!」僕は思わずヒートアップする。

「福岡市博多区那珂・・・」

「おいおいそこは10年前に引越ししているよ」あきれた。

「そうですか・・・しかしそうは言われましても。住所変更のお
届けを出していただかないと・・・」態度は相変わらず横暴でい
かにも面倒くさそうだ。

「だいたい住所くらい本気で調べればわかるはずだ!それこそ銀
行に聞けば簡単だろう」こっちは高校卒業してすぐにサラ金の回
収業務をやってたんだ。そんなことを考えていると僕はピンと来
た。

「債務が1万円だからこういう事になっているんだな!もし債務
が1000万円だったらこんなズサンな処理じゃなくて死に物狂
いで連絡をとるはずだ。1万円だからいい加減に処理をしたんだ
な!とにかくこれは重大な信用問題だからな!」僕は一気に捲く
し立てた。

 ところが相手は一歩も引かない。どうやら債権管理部の人間ら
しい。僕を悪徳債務者だと思っているのだろう。

 埒があかない。一旦電話を切る。

 とにかく元の債務をもっているという銀行に事実関係を確認し
なければ。

 しかし銀行側は気がつかなかったのだろうか?月にこの銀行の
担当とは何回かは話をする。

 1万円という金額の少なさがシステムをすり抜けてしまったの
だろうか?それにしても連絡が取れなければ自動的にブラックと
いう烙印が押さるんだと考えると恐い話だ。たしかに夜逃げした
場合なんかもあるわけで、その場合本人確認などとれるはずもな
いのだが・・・。

 僕は担当に電話で内容を説明した。

「えっ?何も聞いてませんよ・・・おかしいですね。了解しまし
たすぐに調べさせます」担当も首を捻っている様子だ。

続く。 

 

  2006年06月05日   岡崎 太郎