581-クーデター

 深夜ホテルに戻りテレビの電源を入れた。
 海外のニュースチャンネルから英語が流れてくる。


 迷彩服の兵隊がぞろぞろと歩き、戦車や装甲車がゆっくりと動
いている。

 僕は違和感を感じた。

 あれ?なんか変だぞ。

 背景が砂漠やジャングルではない。
 都市だ。しかし倒壊した建物は見当たらない。
 
 それどころか近代的なビルや丹精な西洋建築が映っている。

 なんだ?軍事演習か?

 どこの国だろう。

 僕はキャプションに目をとめた。

 タイランド。バンコク?

 えっ?

 そういえば遠くに黄金に光る寺院が見える。

 リモコンを手繰りよせサブ音声を選択するが、どうやら深夜は
二ヶ国語放送に対応していないようだ。

 えーい英語じゃわからん。

 急いで国内のニュース番組を探す。タイミングよくBS1のN
HKがニュースを流している。

「クーデター?」僕は耳を疑った。

 たしかに国境付近でテロは数件あるとは知っていたが、まさか
クーデターとは。90年代の初頭には数回クーデターを繰り返し
たそうだが、もう昔の話だと思っていた。

 なにせ立派な民主国家だ。仏教の浸透度が強く民衆の笑顔は
世界でも群を抜く素晴らしさで、僕の大好きな国だ。

 信じられない。

 武力で現政権を転覆させようという発想がこの国の軍内にあっ
た事実。まだ流血騒ぎはないようだが。

 勝手に暴力とは縁のない国だと思っていた。信頼される国王の
存在する国。歴史上一度も侵略されていないと聞いていた。

 一部の軍が暴走しているとの報道だが、タクシン首相がNYの
国連に出掛けているタイミングで事を興したらしい。

 悪徳政治家を地でいくタフな首相らしいが・・・だからいって
クーデターとは、よほどの事情があるのだろうか?

 現在、空港は閉鎖していないそうだが、しっかり戒厳令が敷か
れているそうでテレビ局も占拠されているそうだ。タイ国内向け
のCS放送などは信号がブロックされ一部のテレビで国王の映像
が繰り返し流されているようだ。情報統制だ!

 外務省のHPでは、早々と余程の用のない限り渡航はやめなさ
いと情報が更新されていた。

 ちなみに僕は来週からタイへ遊びに行く予定なのに。
 このクーデターどうなっちゃうんだろ?

  2006年09月20日   岡崎 太郎