599-DCN-7 カストロに逢いたい!

26日キューバ3日目 朝。
 
 朝7時に目が覚めた。外が少し白けてきたので朝焼けを撮影で
きるかもと僕はカメラをリュックに投げ込みホテルを出た。



 ホテルの裏手を1kmほど歩くと海岸に出る。目の前が有名な
モロ要塞だ。陽気なカリブ海をイメージしていたのだが、波は日
本海のように高く険しい。

 防波堤で釣り人が数人見える。生活のための漁だろうか?。

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 海岸沿いを右に折れ、朝日が昇る方に向う。

 遠くに色とりどりのスペイン建築がオレンジに染まっていく。

 もっともキューバらしい風景のひとつだ。
 なんて美しいんだろう。

 僕は露出設定を変えながら風景を切り取り前進する。

 すると広い公園の真ん中に大理石で出来た立派なモニュメント
が見えてきた。強烈な朝焼けをバックにモニュメントの上にある
騎乗した戦士がシルエットになる。

 絵になるなぁと思いつつ、嬉しくなって角度を変え何枚も写真
に撮る。ちょうど、ぐるり反対側に回りこんで行くと、モニュメ
ントの中段に座っているラガーシャツを着た男と目が合う。

「お前は日本人か?」大柄な男が僕に声を掛けてきた。

「そうだ」

「こっちに来てみろ興味深いものを見せてやる」
男は僕を手招きした。

 まぁこんな朝から変なことはないだろうと思い階段を登る。

「この像は60年前にイタリアから贈られたもんだ、この戦士は
当時の将軍で彼の栄誉を称えたもので、小さなピースに分解し
て船でイタリアから運んだんだ。ほらここに継ぎ目があるだろ」
と笑顔で話しはじめた。

「あなたはガイドなのか?」男の流暢な英語に僕は尋ねた。

「そうだ僕はガイドだ。しかし彼はここに住んでいる」そう言う
と彼は振り返り扉を開けた。
 
「住んでいる?」

 僕は男の背中越しに中を覗きこんだ。

 そこには老人が杖を持ち椅子から立ち上がり手を差し出した。
僕は握手をする。小柄だが、どこかインディアンの酋長のような
威厳がある。

「彼は40年間ここに住みモニュメントを守っているんだ」男は話
を続けた。
 
 確かに3畳ほどの狭い空間にベッドにTV、冷蔵庫にガステー
ブルと生活しているらしい。壁は淡いグリーン。窓は無い。

 老人の名は Montalvo 75歳、もともと革命の戦士だったそう
だ。ちなみにガイドの名はロベルト32歳。

 なんとも不思議で奇妙な光景だ。

 ロベルトの説明を要約すると、その昔カストロが時の政権をバ
チスタを転覆させた時、百メートル前にある首相官邸から当時の
リーダが地下トンネルを進みこのモニュメントで隠れた後、時期
を見てフロリダに逃げたそうだ。今は閉鎖されたそうだが・・・。
「お前は日本人だから特別に見せよう」

 そういって男はトンネルに続く長い階段の入り口を案内してく
れた。なんだか歴史に触れた感じがして鳥肌が立った。

「写真を撮っていいか?」

「もちろん」男はニッコリ笑った。

どうやら早起きは三文の徳のようだ。

  2006年11月07日   岡崎 太郎