「山本。少し話を戻したいんだけどいいか?」
『カレーを食べたい』これって『やりたいこと=カレー』という欲求っての
が先にあるわけけど、その想いがなかった場合どうなるのかなぁ」
「そのつど適当に湧き上がってくるんじゃないの」
「まぁ昼食くらいならそれでもいいけど、何も指針が無いってのはどうなん
だ?」
「適当に外食ばっかりしてたらあっという間にデブになっちゃうな」山本が
笑った。
たしかに健康的な生活ではない。
「山本は何か明確な目標とかやりたいとかってあるのか?」
「俺はやっぱ今の彼女と結婚だろ。そんでマイホーム。それと昇給昇進。そ
んで素敵な家庭だよ」山本がオドケテ応える。
「嘘だろ?」僕は山本に振り返る。
「嘘だよ嘘!今時そんな事思ってる奴がいるかよ!そんな誰かの受け売りの
ような人生はこっちから願い下げだ」山本は右手の中指を立てた。
「じゃあなんだ」
「しいて言えば自由だ」山本はきっぱりと言った。
自由。僕の頭の中で自由という言葉がくるくると回った。この男はどんな
意味で自由という言葉を使っているんだろうか?
「どんな自由だ?」
「すべてだ!・・・といいたいところだが」そう言って言葉を切ると喉が渇
いたのか、少し溶け出したダイキリを飲み干し続けた。
「まず経済的な自由。そんで選択の自由。この2つの自由を俺は求める」山
本はこぶしを力強く突き上げた。
「自由ね・・・」
「嘘だ。なにも明確には持っちゃいない」山本が自虐的なトーンで言った。
酒の入った頭でこれ以上は無理だと思い。話題を切り替えることにした。
堅苦しい話はもう充分だ。せっかくのダイキリが台無しになることは避けた
い。
「新しいダイキリをお作りしましょうか?」
無口なバーテンがその変化に気がついたのか僕に微笑んだ。