「まず結婚だな」
「ほんとかよ」昨日の繰り返しであることに呆れた。
「ああ、もう今の彼女ともつきあって5年になる。いい加減ケジメが必要だ
ろう」
ケジメ!だと信じられない。
「結婚すると家が必要になるだろ。子供は2人は欲しいから部屋は3LDK
は必要だ。しかし都内でそれなりの広さを考えると・・・今の給与じゃ無理
だなぁ」
なんだ?今まで山本はもっと大雑把な性格だと思っていた。
「おいおい。あんまり現実的に考えのはよくないんじゃないか」
「ああ連想ゲーム的だと、どうも現実に引き戻される」
正しい質問に正しい答えが宿るって言ったのは、高校の時の数学教師だよ
な?あの先生名前なんだったけ・・・そんな事を思い出した。
「正しい質問から考えてみるか?」僕は山本に数学教師の言葉を伝えた。
「カマッチの口癖だったなそれは」そうそう数学教師の名前はカマッチこと
蒲地という名前だった。
「じゃあ正しい質問を考えよう」僕は言った。
「いや、ちょっと待って、質問の前にジャンルを考えよう。たしか以前読ん
だ本にそんな事が書いてあった気がする・・・」
「どんなジャンルだ?」
山本は説明をはじめた。
うら覚えだが、
1 マネー お金にまつわること・
2 モノ 手に入れたい品物・
3 知識 知識に関すること・
4 体験 やってみたいこと・
5 仕事 ビジネスにまつわること・
6 自分 なりたい自分の将来像
ほかにも人間関係や社会との関係なんてジャンルがあったと思うんだが、
ちょっと想い出せない・・・まぁこんな感じだ。
「へぇ」と僕は声を漏らした。
山本は続ける「このジャンル別に質問を考えてみよう」
なるほど、さっきの連想ゲームよりは効率よく求める答えが見つかりそう
だ。
「それじゃあ、まずは「お金」のジャンルから」山本がサイコロを振る博打
師に見えた。
「いきなりお金かぁ」僕は腕組みをして考える。
「やっぱ稼がなきゃはじまんないもんな」山本が口を開く。何がはじまらな
いんだ?山本の口から「欲しがりません勝つまではなんて」戦時中の標語が
でてきそうだと思ったが茶化すのは留まった。
「山本は年収でいくらもらってんの?」
「月30万でボーナス入れて450万に届くかどうかだ。これっていい方な
のかなぁ?」
「とびっきり高いって額じゃないと思うが悪くはないんじゃないか」感想を
伝える。
「お前はいくらだ」僕も山本とそう変わらない給与であることを伝える。
「これから格差が広がりはじめるのかもな」山本が独り言のように言った。
「ちなみに日本人の生涯賃金っていくらか知ってるか?大学卒業して定年ま
での約40年間の平均」
「たしか2億円だろ」山本が短く答える。
「統計上の平均だとな。しかし2億円ってのは東京の話さ、地方でいえば、
1億5000万ってとこだろう」僕は淡々と話す。
「入社して数年は月給で考えてたが、ここ最近はすっかり年収で考えるよう
になった。そのうち生涯賃金で考えるようになるのか?」最近役職があがっ
たおかげで成果主義が導入された山本らしい発言だ。
「年功序列や終身雇用が崩壊しちゃったからね、今年稼げてても来年リスト
ラになったら稼げないもんな」
「そりゃそうだ。なんか安心できない社会だよなぁ。真っ赤に熱された鉄板
の上でダンスしてる感じだ」
「僕も山本も結局上司や会社の都合優先で働いてるってことさ」
「とにかく一番目の質問は生涯賃金はいくら?で決まりだな。そこからブレ
イクダウンして40歳の時の年収はこれぐらい稼いでいたいが導けそうだ」
山本は発言しながらノートに書き付けた。
「年間500万の報酬で40年働いて2億だ」
「500万キープするって大変だぞ」山本が眉をしかめた。
「となると次は貯蓄だな。これから年金だってあてになるかどうかはわから
ないし、持ってる奴は持ってんだろうけど」
「俺は200万も無いぜ」山本はゲンナリと言った顔で答えた。
「たしか毎年生命保険会社が世代別の貯蓄統計を発表してたが、それって平
均以下だろ?」
「悪かったな平均以下で・・・。しかし平均なんてもんはあてにならん。ス
ゲエ金持ちが1人で平均上げてるだけだって絶対。俺の同期で貯金なんか持
ってる奴なんか聞いたことない」
みんな黙ってるだけじゃない?一瞬そう思ったが、事実自分も先月引越し
をしたおかげで貯金は100万程度だ。これじゃあ投資の種銭にもならない
。
「若いうちは、バンバン使えばいいと思うんだけどな」山本が切実な顔をし
た。でも老後に向けては準備が必要であることは間違いない。2番目の質問
が決まった。
(2)60歳までに貯蓄はいくら欲しいですか?
続けて次々に細かい質問を作った。
(3)10年後の年収はいくらですか?
(4)子供にお金は残したいですか?
(5)不老所得が入る手段を持てるか?
次は「モノ」ジャンルだ。