672-デンパサール

 関西空港の四階にいる。

 僕は途方にくれている。
 デンパサール行きのチケットを発券できないのだ。


 

 旅行会社が悪いわけではない。
 そう、またミスである。

 今週の予定は、月曜に東京で会議に参加、翌日火曜は大阪に飛び、親友の
妹尾榮聖とセミナーを行い、翌水曜からインドネシアへ週末まで飛ぶ予定で
ある。

 そんで月曜の朝五時に起きてゴソゴソと一人旅の準備をした。

 ここで痛恨のミスをやってしまった。
 古いパスポートを持ってきてしまったのだ。

 ちょっと確認すればわかることなのに。

 しかしどうしようもない。
 フライトはもう一時間半後だ。

 福岡空港ならまだしも・・・福岡と大阪はタクシーで走ってどうにかなる
距離ではない。チケットはもちろん格安のため、日時変更などできるはずも
ない。しかもガルーダは一日一便。隔日で飛んでいるため望みはない。

 急遽JAL便を確認する。エコノミーは満席。ビジネスのみ2席空いてい
るとわかった。正規料金で48万円。
 自分のミスながらパスポート間違ってその金額はない。

 そこで、別ルートを考える。
 成田はどうだ?名古屋はどうだ?エコノミーは空いてないのか?

 しかも福岡に戻ってパスポートをピックして、それから移動して、
間に合うのか?飛べるのか?

 旅行エージェントの濱に電話をした。

「どこからでもいい。今日中にデンパサールに飛びたいんだ!すぐに各航空
会社の時刻を調べてくれ。とりあえず成田からだ」

 僕の悲痛な声にさすがの濱も呆れていた。 

 僕はそのあいだ、帰りのチケットは流さないように依頼した。
行きの便に乗らなかったら、自動的に帰りの便はながれるそうだ。

 それは困る。往復と片道なら、絶対に片道の方が安いはずだ。
担当の女性は献身的に、各所に電話をかけ交渉してくれている。

 どうにかなるのか?

 ってまだ行けるかどうかわからないのに、帰りの心配でもないだろう。
いや。行く方法は何かあるはずだ。マルチタスクで考えておかないと後手に
なると話はさらにややこしくなる。

 まず追い金なしで確保できる部分は確保しておきたい。

 濱から折り返し電話がかかってきた。

 成田も名古屋も今日飛ぶのは無理。消去法で行きの便のみJALのビジネ
スしかない。もう旅をやめるという選択もあるにはあるが・・・。
えーいままよ。片道は29万。高いが48万よりはいい。
(もともとは往復9万円なのだが・・・)

 あとはパスポートだ。
 
 事務所の誰かに僕の自宅まで走ってパスポートを確保し、
そのまま関空まで持ってきてもらうとして・・・僕は時刻表を調べた。

 おっ!ちょうどいい時間のフライトがある。
 僕はマサキ君に電話をした。

「すまん。トラブルだ」僕は経過を簡単に説明した。「そんで出発口でパス
ポートをわたして、すぐキックバックで帰る便がある。頼んだよ」

 濱から電話。

「パスポートどうします?」
「スタッフに持ってきてもらうことになったよ」

「へぇ・・・じゃあ当日だから、株主優待チケット準備しましょうか?」
「そうだね。少しでも安いと助かるよ」
「了解!」

 どうにか光が見えてきた。

 デンパサールの鄭秀和に電話をする。
「鄭さん!トラぶった!ごめんそっち到着が夜中になりそうだよ」
「あはは、なんだか面白い旅になったね。とにかく気をつけて!」

 鄭さんとは、もう8年の付き合いになる。彼は優秀なデザイナーで
デザイン家電の「amadana」のデザイナーだと言えば知っている人も
多いと思う。今回は彼がただいま設計開発中のバリのホテルを見学に行くの
が目的なのだ。

 うーんさすが世界の鄭さん。
 それに比べて僕は何をしてるんだ。

 まったく無駄なお金と労力だ。

 結局、夕方17時のJAL便で飛び、帰りは当初のガルーダで戻る予定に
なった。

 さて今回の旅は波乱の予感だが・・・今僕はトンカツを食べている。
「特上ヒレかつセット」だ。メルマガを書いたら、北方水滸伝・第十巻でも
読んでパスポートの到着を待つことにしよう。

  2007年07月25日   岡崎 太郎