682-新入社員ファックス送信の話

 業務部長の佐藤は、来週末に必要になる資材の発注書をプリントアウトす
ると新人のA君に取引先へFAXするように指示しました。


 A君は発注書を受け取り送付先のFAX番号をメモすると、研修で教えら
れたとおり送付状を作成しFAXを流しました。

 しかし翌朝、A君は部長から呼び出されてしまいます。
「君はFAX一枚送ることもできないのか」と怒られます。
なんと原稿の裏面を送信してしまったようなのです。

「私が先方へ確認の電話をしなければ事態は大変なことになっていたよ。以
後注意してくれたまえ」部長は強い口調でA君を叱りました。

「いいかA君、FAXにしても電話にしても、相手に要件が伝わらなければ
意味がないんだ。依頼された仕事の意味を考えて行動するように」

「電話もですか?」

「電話をして相手が不在だったとしよう。折り返し電話をしてもらうように
依頼したとしよう。しかし夕方になっても連絡がないとしよう。君はどうす
る?」
「また電話をします」

「そうだ、何度でも連絡して相手に要件を伝えるんだ。メールやFAXを送
ったからと言って安心してはいけない。相手が出張中でFAXを見れない状
況かもしれないからね」

「わかりました」A君は元気のない返事をした。


「その返事が駄目だ。君は私に何を伝えたいんだね。その元気のない返事は
私に叱られてションボリをアピールしてるのかい?それとも不服を伝えたい
のか?それとも君の癖なのかね。態度は言葉以上のメッセージとして相手に
伝わるから君は自分の態度に責任を持たないといけない」

「すみません。ただ、部長の言われた内容を考えていました」
「そうか、私にはそうは見えなかったよ」

「はい以後気をつけます」今度は部長の目をみて歯切れよく返事をした。
「いい返事だね。頼まれた作業を、ただそのまま言われたとおりにするので
はなく自分なりに考えて行動することが大切だよ。それに私の渡した発注書
の数量を君は確かめたかね。もし間違っていたら君は気づいたかね?」
そう言うと部長はニヤリと笑った。

「いえ、数量を見ることもしていませんでした」

「今は出来ないかも知れないが、自分の仕事だけでなく、まわりの仕事にも
気を配るんだ。チームで仕事をしているんだからね」


 いかがでしょう。このFAXの例では、依頼されたことを、従順に行うだ
けでは、勘違いやイージーミスを犯す可能性が高いことがわかります。大切
なことは依頼はFAXを送ることではなく、原稿を先方に届けることなので
す。

 しかし実際多くの場面で、直観的、本能的に「考える工程」を省略し過去
の経験値に基づいて素早く判断し行動しているのが実情です。しかも後から
反省することもあまりありません。また一所懸命に考えているつもりでも、
無駄に時を浪費している場合が多くあります。

 しかも多くの場合、詳細に考えようにも時間が限られている場合がほとん
どです。素早い判断が求められています。

 判断には、過去の体験した成功と失敗が大きく作用します。大きな失敗を
体験することで、それがトラウマになってしまい、行動できない事はよく知
られています。また過去に褒められた経験や成功体験から、同様の行動をと
った事は誰にでもあるでしょう。つまり極めて即人的な嗜好によって判断を
しているのです。

 もちろん、そういう判断でも構わない場面もあるでしょう。しかし「プラ
ンを策定しその判断」を考えなければいけない此処一番という時に能力がな
ければ成功を実現するのは遠くなってしまいます。ですから出来るだけ日頃
から「詳細に考えること」を実践しましょう!

  2007年09月21日   岡崎 太郎