699-おもてなし

先日、大阪の有名ホテル19階にあるフレンチレストランで食事をした時
のことだ。


 ソムリエが着ているジャケットの襟に文字が刺繍してあるのを見つけて
「何ですか?」と尋ねると、「おもてなしマネージャーです」という答えが
返ってきた。19階のフロアーには和食・中華・ラウンジとバーそしてフレ
ンチとホテル直轄のレストランがあり4名の「おもてなしマネージャー」が
いるそうだ。

 ところが、僕がこのレストランに入店する際「タバコは吸えますか?」と
質問すると、こちらはすべて禁煙でおタバコはエレベーター横の喫煙スペー
スでと言われた。そこでその喫煙場所を確認すると、JTのスタンドタイプ
灰皿がポンと置いてあるだけでベンチもなくあまりに貧相で驚いた。

 目線をレストランに移すと、すぐ横にバーが併設されているのを発見し
バーは喫煙できるのかと尋ねた。「はい、バーは喫煙できます」と答えたあ
と「でもレストランは禁煙ですから喫煙はエレベーター横で・・・」と尻す
ぼみでつけ加えた。

 彼女が何を考えたのか僕にはわからないが、このレストランは、決して安
くない。しかもバーとレストランは同系列。バーの店内には客が一人いるだ
け。

 バーでウイスキー一杯頼めばウェイティング的に使うことは問題無いはず
だ。

 そんなことがあったので、「おもてなし」と聞いて呆れた。

 そもそも「おもてなし」とはサービスで語るものであって、言葉で表現す
るものではない。食事が終わって顧客の口から「最高のおもてなしでした
ね」と掛けられる言葉である。つまりレストラン側が対外的に宣言するもの
ではないのだ。

 だいたい「さぁ今からおもてなしをしますよ」と言われては興醒めで、今
「おもてなし」をしているなと悟られることは恥ずかしいことだと思う。極
自然に板についたサービスでなければワザとらしさが鼻につくのだ。

 言い出したのはこのホテルの社長だそうだが、このへんの感覚をどう考え
られているのだろうか。

 しかし案内のお姉さんのレベルが低いと、それ以外のスタッフがいくら努
力しても評価が下がることは残念なことで、挽回のしようが無い。

「おもてなし」を語る上では、顧客の状態を「観察」し小さな事を「察知」
しそれぞれの顧客にあわせて「臨機応変」に対応することが肝要だが、「観
察」「察知」「臨機応変な対応」そのどれもサービスを行う人間の能力に大
変左右される。

 しかもその評価はとても難しい。

 過剰でもいけないし、あまりに慎ましくても物足りない。こういう場合は
こうしなさいといったマニュアル教育では超えれない世界がある。歴史や文
化が育んだ企業固有の精神が影響していることはよく知られているが、「お
もてなし」単なるスローガンでは悲しすぎる。

 ちなみにお料理は大変美味しく満足できた分、このことが残念である。

  2007年12月17日   岡崎 太郎