748-4コマ漫画ツクール

昔から才能のある知人と久しぶりに酒を飲んだ。
 知人と書くのは、親友と呼べるほどの仲ではないからだ。


お互い顔と名前そしてだいたい何を業にしているかを知っている程度とい
う間柄で連絡先は知っているものも、お互い積極的に連絡をとるわけではな
く、気づけば8年もその関係を続けていた。

  それが先日とあるバーで再会し、朝の4時まで話しなんとなくお互いの間
に漂っていた壁が消え、この数年に起きた出来事を互いに公開し、想ってい
ることを暴露した。

 ずいぶんと忘れていた話も思い出した。今日はそのひとつを紹介したい。

 僕が28歳の頃のことだ。プレイステーション2の概要発表をネットで見
て、あるゲームのアイデアを思いついた。

 その名は「4コマ漫画ツクール」

 内容はこうだ。

 材料として用意してある漫画と吹き出しそして効果線を自由に選択し
4コマに配置し台詞を考え入力し作品を作り、プレステ2に新搭載される
通信機能で投稿するというもの。

 いわば笑点の大喜利のようなものをイメージしてもらうといいだろう。

 投稿された作品である4コマ漫画は、ネットで多くの視聴者に公開され
評価を受けそのポイントでランキングされる。

 月間の得票数で順位を決め表彰する。年間チャンピオンシップなんてもの
まで考えつき、テレビ番組とのコラボや週刊誌との連動を企画書に書き加え
た。

 また材料データは、コンビニの端末やネットから追加購入可能とし、毎月
有名漫画家の材料をアップデートするなど細かい注釈も入れた。

 また作品を投票する権利をコンビニで購入するかわりに、得票に応じて
小遣い的な金券ポイントが付与されるという方法も提案した。ただしギャン
ブル的なのでいろいろと法律的にNGかもしれないという注釈を入れた。

 ちょうどタモリのボキャブラ天国が流行っていて、投稿型メディアを意識
した企画であった。

 ゲーム機の中だけで完結せずに、漫画、テレビ、コンビニ、今であれば
ケータイも巻き込もうという企画に僕はワクワクした。

 30ページもの企画書を書き、ソニーコンピューターエンターテイメント
に電話でアポをとり、プレゼンを行うため東京へ1人で乗り込んだ。

 最終着地など何も考えていなかった。駄目でもともと、何も問題はない。
失敗も何も、ただただ話を聞いて欲しかった。

 約束時間の一時間前に約束のビル前に来たものも、大雨で雨宿りもままな
らない。隣のビルの一階ロビーに灰皿があったのでそこで時間を潰した。

 受付を済まし小さな会議室に通され、少し待つと、僕より少し年上らしい
担当がやってきた。緊張感の漂うなか、30分僕は精一杯プレゼンをした。

 結果はその場でNG。通信機能は搭載するものもソニーとしてはそういう
使い方を考えていないという答えだった。

 今でも誰の紹介でもない素人の話をよくぞ30分も聞いてくれたもんだと
思う。あまり悔しさはなかった。

 あれから10年、これほどケータイが普及するとは想像もしなかった。
ただ今になって冷静に考えてみると、テレビの方を先に押さえてからゲーム
に行くべきだったように思う。

 ほんの少しほろ苦い思い出を思い出した。
 他にもたくさん思い出したのだけど、それはまた今度。



 

  2008年06月17日   岡崎 太郎