できれば楽して金を儲けたい
「手段は選ばず悪知恵をフルに駆使して楽して儲けたい!」とまでは思わ
ないにしても、誰しも一度くらいは「楽して儲けたい」という思いをもった
ことはあるだろう。
可能な限りスムーズに案件が進んでくれればと願うのは自然な感情。
楽々とまでは行かずとも、自分の努力に見合った成果を手にしたいと思うの
は僕も同じだ。
子供の頃、母方の祖父に「若い頃の苦労は買ってでもしろ」と何度も
聞かされた。苦い経験の中には、たくさんの生きた学びがある。
また苦労を経験することで他人の痛みがわかるようにもなる。
戦後満洲から戻り、身ひとつから事業を成功させた反面、大変な苦労も
経験した祖父の座右の銘だ。おかげで学生時代、困難に直面すると、
この祖父の教えを思い出しずいぶんと励まされた。
しかし、この教えを妄信するあまりだろう、ある時からやたらと苦労が
舞い込むよになった。
どう勘定しても他人より苦労が多いような気がするのだ。
もちろん正確にカウントすることなど出来ないわけだが・・・。
今思えば「苦労は買ってでもしろ」と思うあまりに、必要の無い苦労まで
引き寄せてしまったのだろう。
ミスター苦労のデパート
結婚して間もない訪問販売のセールスマン時代、「ミスター苦労の
デパート」と呼ばれた先輩がいた。
彼は二度の離婚後、再婚したフィリピン女性との金銭トラブルに巻き込
まれ複数訴訟問題。そして単独夜逃げ、ついに本名では生きていけないと
いう最悪な状況に追い込まれていた。
ある飲み会の席で「苦労は先輩の役に立ってますか?」というダイレクト
な質問をした。
ミスターは遠くを見つめながら「人間は弱いから、あんまり苦労し過ぎる
と性根が捻くれちゃうからね」と静かに応えたあと「何ごとも
『過ぎたるは猶及ばざるが如し』。度を超えて行き過ぎたものは、不足して
いる事と同じようによくないという孔子の中庸を説いた教えだよ」と優しく
微笑んだ。
僕は瞬間に今までの考えを改めた。
「ミスターの言うとおり、苦労なら何でも役に立つのではないのだ」
「必要の無い苦労まで背負い込むことはない」
この夜を境にすっかり魔法から解けた気分になった。
何事も過ぎたるは及ばざるが如し。
今では「必要のない苦労に意味はない」は信条である。
★苦労には経験しなくていい苦労もある。